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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気5
NL00040104
狂犬病


狂犬病-その2-
                     
                    国立感染症研究所 人獣共通感染症室
                                 
                                神山 恒夫

■1 はじめに
 前回、狂犬病について紹介した中で、狂犬病ウイルスは本来は野生動物に保有されていること、人間に対して感染源となる危険性のある動物は犬だけではないことなどを書きました。今回は、特に北アメリカで狂犬病の感染源動物として警戒されている野生動物の中から、アライグマとコウモリについて触れてみます。

■2 アライグマの狂犬病
 本来、アライグマは中部アメリカから北アメリカにかけて分布しているアライグマ科の野生動物です。ところが、この北アメリカ原産のアライグマが日本にも棲息しています。幼獣のときの表情が愛らしいことなどから、アニメーションや漫画の主人公として扱われた影響もあって、わが国には多数のアライグマがペットとして輸入されました。しかし、成長して本来の野生動物としての性質があらわれてくるに従って、飼いきれなくなって捨てられたり逃げたりした動物が都市近郊を中心に各地で野生化し、住み着いていることが明らかになっています。アライグマはとても生命力が強く、在来の日本の動物種に対する影響のほかに、人獣共通感染症の感染源となる可能性も心配されます。
 さて、アライグマが北アメリカにおける狂犬病ウイルスの最も重要な保有動物の一つであることは日本では一般にはほとんど知られていません。アメリカではアライグマをスポーツハンティングの対象として人為的に移動させたことがありました。このとき、たまたま狂犬病に感染してまだ症状をあらわしていない、つまり潜伏期間中の動物が混じっていたことが狂犬病が拡大した原因とされています。
 図1にアメリカ合衆国での1997年のアライグマの狂犬病の発生報告数(総数:4300頭)と分布を示しました。

 このように、事実上東部海岸の諸州に限局しているのがアメリカのアライグマ狂犬病の特徴です。この図が集計された後、1999年7月には五大湖地方の北側にあってアメリカ合衆国と面しているカナダのオンタリオ州で狂犬病のアライグマが発見されました。図1の分布がついにカナダにも侵入したのです。これがオンタリオ州だけで100万頭はいると推定されているアライグマの社会、さらには他の野生動物の間に広がることのないように対策をとる必要があるでしょう。幸い日本では狂犬病はこの40年間以上発生していません。しかし、日本に多数のアライグマが輸入されていることから考えると、アメリカ・カナダの例は決して対岸の火事とはいえないような気がします。私たちは輸入アライグマとともに狂犬病が入り込まないよう、細心の注意を払って行きたいと考えています。

■3 コウモリの狂犬病
 日本にはオオコウモリ科やキクガシラコウモリ科に属するコウモリなど、約33種が棲息しているといわれます。世界的にはコウモリは種類と生息数が最も多い哺乳類の一つで、最近ではいくつかの重要な人獣共通感染症の感染源動物として注目されています。
 コウモリが関わっているウイルス性人獣共通感染症の中で最も重要なものの一つが狂犬病です。コウモリが原因となったと考えられるヒトの狂犬病(および狂犬病類似疾患)は、南北アメリカ、オーストラリア、それにイギリスでも報告されています。
 このうちアメリカ合衆国ではアライグマと並んでコウモリが主要な自然宿主として警戒されていて、1980年から1997年の間に発生した狂犬病患者の58%はコウモリ由来のウイルスによるものであることが明らかにされています。こうしたことから、かなりの数のコウモリが狂犬病ウイルスを保有していると推定されています。事実、落ちていたり、飛べなくなったり、家の中に迷い込んだりして捕獲されて、検査のために州の獣医学検査所や保健所に持ち込まれるコウモリのうちおよそ5-13%、毎年600-800匹のコウモリが狂犬病陽性と診断されています。このためにアメリカではコウモリと接触した人に対しては、そのコウモリが狂犬病ウイルスを持っている危険性が高いとの前提のもとに、暴露後予防接種を行うように勧告されています。

 図2にアメリカ合衆国での1997年のコウモリの狂犬病の発生報告数(総数:958頭)と分布を示しました。
 狂犬病のほかにも、コウモリが関与している可能性のあるウイルス性人獣共通感染症として、リッサウイルス、モービリウイルス、ベネズエラウマ脳炎、東部ウマ脳炎、チクングニア、リフトバレー熱、キャサヌール森林熱などが知られています。また、腎症候性出血熱ウイルスは韓国においてキクガシラコウモリなどによって保有されていることが明らかになっていますが、このコウモリはわが国にも多数棲息していることが知られています。その他にもコウモリにはサルモネラ、シゲラ、エルシニア、結核、レプトスピラ、ブルセラ、Q熱、トリパノソーマ、ヒストプラズマ、ブラストミセスなどの感染のあることが知られています。
 いずれの感染症の場合も、日本ではこれまでコウモリからヒトへうつったことが確定された症例は知られていませんが、感染症予防の観点からは、コウモリを捕獲したり素手でさわったりすることはもちろん、輸入された珍しいコウモリをペットとして飼育するなどの不要な接触は当然避けるべきでしょう。

■4 日本の狂犬病対策
 前回と今回とで、日本には存在しない狂犬病の紹介をしました。一度消滅したと思われた後、再び出現する病気をリエマージング・ディジーズ(再興感染症)と呼びますが、狂犬病を日本でリ・エマージさせないようにするためにはいくつかの対策が必要です。
 その対策は大きく二つに分けることができます。一つは

(1) 国外から狂犬病を持ち込ませない、ことです。もし、これが完璧に行われれば日本の狂犬病清浄状態は安泰です。
 しかし、ものごとに「完璧」はありません。そのため、万が一狂犬病が侵入したときのために第二の対策を準備しておかなくてはなりません。それは
(2) 感染の拡大を防ぎ、侵入した狂犬病を撲滅する、ことです。この第二の対策は3本の柱で構成されます。
(z@) 国内のイヌに対するワクチン接種の徹底:現在存在しない病気に対してワクチンを接種することは、一見無駄に思えるかもしれませんが、これは感染の拡大を防ぐためにとても重要なことです。
(zA) 検査・診断体制の整備:イヌ・ネコや野生動物の狂犬病を確実に検査・診断できる監視態勢を整えておくことによって、万一のときに迅速に対策を立てることができます。私たちの研究室では動物に対する狂犬病検査体制を整えています。
(zB) 狂犬病発生地域の清浄化:万一狂犬病が発生しても、病獣に対する対策が確実に行われるならヒトに感染する可能性はゼロといえます。そのため、発生した地域での感染動物の封じ込めや、放し飼い動物や野生動物対策が必要となります。

筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出典は、スペースの関係で省略しています。