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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気6
NL00050103
コウモリ /感染症

コウモリからうつる病気

                                                   国立感染症研究所 人獣共通感染症室
                                                              神山 恒夫

■1 はじめに
 前回、コウモリは狂犬病のほかにもさまざまな人獣共通感染症の感染源となっている可能性があると書きました。コウモリは分類学的には翼手目(よくしゅもく)に属し、地球上で最も数の多い哺乳類であるといわれています。しかし「鳥でも獣でもない」とか「闇の世界の動物」とかいわれて、のけ者にされてきた感もあります。その影響かどうかは別として、コウモリが原因となる人獣共通感染症の研究もあまり進んでいないようです。
 幸い日本ではコウモリが直接の原因となってヒトへうつったと考えられる感染症は、これまでは大きな問題とはなっていません。しかし国外では多くの人獣共通感染症がコウモリ由来ではないかとして疑われていますので、その具体例をいくつかあげてみます。

■2 ハンタウイルス感染症
 ハンタウイルスと呼ばれるウイルスがあります。これに感染すると発熱や、皮膚や粘膜からの出血などの急性症状をあらわします。この病気は中国北部や朝鮮半島にあるとされますが、日本でも1960年代に大阪で100名以上の患者が発生し、1970年代には研究施設で約30名が実験室内感染し死者もでました。
 ハンタウイルスはおもにネズミ類が保有している病原体とされていましたが、数年前、韓国の科学者によって朝鮮半島の中~南部で捕獲したクビワコウモリやキクガシラコウモリがハンタウイルスを保有していることが解りました。これらのコウモリは家ネズミと生息環境が似ていることから、ウイルスを共有している可能性も考えられ、ヒトへの感染源になる可能性もあるとされています。ハンタウイルスの仲間は世界中に数多く存在していることが知られていますが、ここでお示しした例のほかにはコウモリが感染源となる可能性についてはまだ報告されていません。

■3 アルボウイルス感染
 アルボウイルスと呼ばれるウイルスの一群は、蚊やマダニなどの吸血性節足動物の吸血活動によって脊椎動物の間をうつっていく性質を持っていることが知られています。そして世界の各地でその土地特有の人獣共通感染症の原因となっています。中南米や北米にあるベネズエラウマ脳炎、セントルイス脳炎、それに東部馬脳炎と呼ばれる病気もそれらアルボウイルス感染症の仲間ですが、脳炎、高熱、髄膜炎など様々な症状を出す重要な病気です。
 これらのウイルスは鳥類や野生の小型ほ乳類が保有していることが知られていましたが、グアテマラで行われた調査では、これらに加えてコウモリの間にもこれらのウイルスによる感染が認められています。実際にコウモリがヒトへの感染源となっているかどうかを明らかにするために、今後調査が必要となるでしょう。

■4 ヒストプラズマ症
 次に、コウモリがヒストプラズマ症という、聞き慣れない病気の原因になった例をご紹介します。
 1993年5月、アマゾン川の中流の都市マナウスの近くにある洞窟を8名の日本人ツアー客が訪れました。それから10-20日後に8名のうち7名が発熱、倦怠感、食欲減退、筋肉痛などの症状をあらわしました。検査の結果、発症しなかった人も含めて全員がヒストプラズマという真菌(カビの一種)に感染していたことが明らかとなりました。感染源は洞窟の中のコウモリ(種類は不明)の排泄物の中で増殖したヒストプラズマであると推定されました。この旅行者達が洞窟の中にいたのは2時間程度だったということですが、この間に閉鎖された洞窟の空気中にまいあがったヒストプラズマを吸い込んだのではないかと思われます。
 ヒストプラズマは温かくて湿気の多い環境、特に鳥やコウモリの排泄物のように有機物を多く含んだところを好んで増殖する性質があります。ヒストプラズマなどのカビ類が侵入しても通常はほとんど症状をあらわすことはないとされています。しかし、乳幼児や高齢者、他の病気等にかかって抵抗力が弱っていたり免疫機能が低下している場合には発症することが多く、そのため日和見感染(用語集参照)と呼ばれることもあります。この旅行者達も、旅の疲れで体調が崩れていたのかもしれません。
 なお、国内でのヒストプラズマ症の発生報告はきわめて少ないのですが、この原因がヒストプラズマ菌の分布や増殖量が少ないためなのか、あるいは通常は感染しても発症しないために見過ごしてしまうためなのかは分かりません。

■5 コウモリ対策
 国内ではコウモリからヒトに感染症がうつったとする確実な報告はまだないようです。しかし、国外ではコウモリが人獣共通感染症の感染源となる危険性が高い動物であると考えて対策をこうじている国もあります。例えばオーストラリアでは、コウモリは狂犬病類似ウイルスを保有しているとの前提のもとに、コウモリに接触することの多い人に対しては狂犬病ワクチンを接種するべきだとする呼びかけが行われています。また、アメリカでは原則的に国外からのコウモリの輸入は法律によって禁止されています。人に対して人獣共通感染症の感染源となる恐れがあるからです。例外的に研究等の目的で輸入が許可される場合でも、厳しい書類検査と、狂犬病とヒストプラズマ症を念頭においた検疫が実施されています。
 ところが日本ではこのような対策は全くとられていません。幸いこれまではコウモリが人間の健康に対して被害をもたらしたことがないためかもしれません。しかし日本では感染例が知られておらず比較的安全だと思われても、コウモリを捕獲したり素手でさわったり、あるいはペットとして飼育するなどの不要な接触は当然避けるべきでしょう。
 さて、国内のコウモリのうち人間の世界にもっとも近いところで生活しているのはヒナコウモリ科に属するアブラコウモリで、別名をイエコウモリということから分かりますようにビル、廃屋、それに人家の屋根裏などにも巣を作ります。このコウモリは北海道以外では、日没直後には簡単に見ることができます。家屋の周囲を飛んでいるコウモリがよそから飛来したものか、その家屋に営巣していているのかを見極めるのは難しいと言われますが、糞が多量に見られるようであれば住みついている可能性も考えられます。
 いったん住みついたコウモリに、平和的に退去してもらうにはどうしたらいいのでしょうか?一部ではコウモリが嫌うとされる薬剤や超音波発生器を用いる駆除方法が効果的であるといわれています。しかしこれらの方法の有効性に関しては疑問視する専門家も多いようです。
 最も確実な方法は、コウモリが出入りしている穴や隙間を物理的にふさぐ方法だといわれます。コウモリの出入り口は夕刻に観察したり、出入り口の下には糞が落ちていることが多いことから確認することができます。日没後、全てのコウモリが飛び出した後に、あらかじめ確認しておいた出入り口を完全にふさぐことで再び営巣できなくすることが可能です。ただし夏季は繁殖の時期で、まだ十分に飛ぶことのできない幼獣が巣の中に残っていることがあり、この時期に出入り口をふさぐと内部で死亡し腐敗する可能性があります。死体や汚物が残っていることがわかった場合にはよく消毒するなどの対策をたてるべきでしょう。

●用語集
日和見感染:
通常、健康人に対しては無害の微生物が、抵抗力が低下した人(易感染性宿主(いかんせんせいしゅくしゅ))に感染して発症させることがある。これを日和見感染(ひよりみかんせん)という。英語ではopportunistic infection。
乳幼児や高齢者、また白血病やHIV感染などで免疫機能が低下したりした結果感染防御能が弱まった場合に発症することが多い。細菌感染では緑膿菌やレジオネラ菌感染、真菌類ではカンジダ症やヒストプラズマ症、原虫感染ではカリニ肺炎やトキソプラズマ症などが代表的な日和見感染の病原体である。

筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出典は、スペースの関係で省略しています。