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ニュースレター(機関紙)

続・話題の感染症5「死亡率ほぼ100%の狂犬病」
NL06120103
感染症、狂犬病

続・話題の感染症5「死亡率ほぼ100%の狂犬病」

(財)海外邦人医療基金(顧問)
長崎大学熱帯医学研究所(客員教授)
おおり医院(院長)
大利 昌久

急速な変貌を遂げる中国に、もはや狂犬病は存在しない。これは全くの誤り。
この数年、ほぼ2000人以上の人が狂犬病で亡くなっている。2005年度は2500人を超えてしまった。中国政府は、遅ればせながら飼犬のワクチン接種の指導と野犬の一掃にのり出した。

2006年8月未、フィリピン(マニラ市郊外)で、右手を犬に咬まれた65歳男性が11月帰国(京都市)後、発病。狂犬病と診断され、意識不明のまま11月17日に死亡した。そして、数日後同じくフィリピンで2年間滞在していた男性(横浜市)が11月15日発病。11月20日、水を怖がるなどの恐水症があらわれ21日狂犬病と診断された。この男性は10月22日すでに帰国し、日本で生活していたのである。わずか1週間のうちに、2件の輸入感染症を経験したのは、日本でも初めてのこと。

今までに、1970年、カトマンズ(ネパール)で犬に咬まれた学生が、帰国後発病し、死亡した例が1件ある。その他、アメリカ国内でコウモリに咬まれて発病した高校教師。幸い、米国内で、狂犬病の被爆後ワクチン接種を受け、助かっている。今回、日本では、この2件に次ぐ、極めて珍しい例となった。
狂犬病は、1958年を最後に日本から、その姿を消した「過去の病気」であった。しかし、今回のように、輸入感染症として「突然あらわれることがある」点を重視しなければならない。

過去、諸外国ではインドから帰国後に、スウェーデン(1974年)・英国(1987年、2005年)・フランス(1977年)・ドイツ(2004年)・フィリピン(1999年)・香港(2001年)で発病例が記録されている。
今のところ日本国内は狂犬病フリー。日本以外にオーストラリア、ニュージーランド、ハワイ、台湾、太平洋諸島、イギリス、アイルランド、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガルも狂犬病フリーと言われる。しかし先進国を自負するフランス、ドイツ、スイスなどでは未だ狂犬病を撲滅していない。その原因はヨーロッパの森林にいるキツネが感染源のため、野生のキツネへのワクチン接種が不可能だからである。そのため、「ワクチンをふりかけたトリ肉」を大量に森林にばら撒くなどの、ワクチン事業を試験的におこなったが効果はなかったようだ。

尚、狂犬病フリーといっても、イギリス、オーストラリアのコウモリから狂犬病ウイルスが分離されたことがあり、狂犬病の脅威は薄れていない。米国では1992年、約900匹のアライグマが狂犬病で死亡したことが確認されている。1999年新たな感染症法が成立するまでは、アライグマは検疫ノーチェックで日本に輸入されていたのだ。それまで犬だけ検疫をおこなっていたチェックが、今では犬以外にネコ、アライグマ、キツネ、スカンクなども輸入検疫の対象となったことは実に喜ばしい。
今や海外に渡航する日本人は1700~1800万人となった。リスクの高い動物に近づかないことが狂犬病にかからないための対策だが、偶然、野性の動物に咬まれることもあり、渡航前に狂犬病の予防接種をうける必要性が高まっている。
今や日本と交流の深い隣国中国への渡航には、特にすすめたい予防接種となった。尚、狂犬病ワクチンは、予防だけではなく、咬まれたあとの被爆治療にも活用できることを知っておいたほうが良い。

今回、相次ぐ狂犬病輸入に関し、多くの質問を受けたので以下に回答した。

(1) 日本人が感染するケースのほとんどは、今回フィリピンで噛まれた男性のような海外滞在時になるかと思われる。狂犬病はすべての哺乳類に感染するということだが、鳥類や爬虫類などに感染しないのはなぜか。
→哺乳類動物は爬虫類などの冷血動物と異なり、保温動物なので、体温が温かくウイルスの生存に適していると考えられる。鳥類はトリインフルエンザウイルスを保有するが、狂犬病については今のところ知られていない。

(2) また海外旅行時に注意しなくてはいけない(感染している可能性のある)哺乳類とは具体的に、どこの地域では、どのような(野生?)動物が挙げられるのか。
→哺乳類動物のうち、ともかく人に身近な動物に気をつけたほうが良い。特に人の生活圏に入りこんでいる犬が最も危険。地域別の狂犬病ウイルス保有動物を表に示した。

(3) 感染するのは、主に噛まれることにより唾液に含まれている狂犬病ウイルスが傷口から人体に侵入すると聞く。舐められたり、動物のくしゃみなどからも感染することはあるのか。このような場合、どういう経路でウイルスが体内に侵入するのか。また、海外で舐められたり、くしゃみで感染した具体例というのはあるのか。
→狂犬病ウイルス保有の動物に噛まれることで感染するが、舐められたり、くしゃみなどの飛沫が、人の目や唇などの粘膜に直接ふれることでも感染する。

(4) 「通常はヒトからヒトへの感染はない」と聞く。では、稀に感染することはあるのか。それとも何かの特異なケースでは理論上考えられるのか。また、過去にヒトからヒトに感染した具体的な例があったのか。
→通常ヒトからヒトへの感染はないが、狂犬病にかかった人が精神錯乱になって他の人を噛めば感染する。又、狂犬病の人の唾液に触れたとか、その人の輸血や角膜や骨髄を移殖されることでも感染する。又、狂犬病の人の採血針を誤って刺す、「針刺し事故」でも感染する。なお、過去エジプトで角膜移殖による人への感染例があった。

(5) 噛まれてから発症するまでの潜伏期間は平均してどれくらいか。また、早いケースと遅いケースではどれくらいか。
→一般に潜伏期間は15日から30日といわれているが、その60%は1~3ヶ月とばらつきが大きい。過去の例では7~10年目に発症したという報告もある。

(6) 発症したら100%死亡するということだが、発症時の初期から死亡までの症状の経過は哺乳類であれば、みな同じか。
→発病し死に至る症状は人を含めた哺乳動物はほとんど同じで、ほぼ100%死亡する。その経過は潜伏期、前駆期、急性神経症状期、昏睡期に分けられる。無症状の潜伏期のあと、発熱、食欲不振、咬傷部の知覚過敏や痛みがみられ、急性神経症状へと移る。神経症状では、強い不安感、精神的動揺がみられ、喉の筋肉の痙攣がおこる。そのため飲水が不可になり、患者は飲水を恐がって避けるようになる(恐水症)。
更に進行すると、麻痺、運動障害、全身痙攣が起き、意識障害に陥る。そして、血圧低下、不整脈、呼吸不全で死亡する。

(7) 狂犬病特有の症状で、水や風、光に対して異常な恐怖心を示すと聞くが、これは精神的な異常によって起こる恐怖心なのか。それとも水や風、光が直接体に何か働きかける(痛みなど)ようになってしまうからなのか。また、この特有な症状(恐水症状など)が出るころは発症者本人の精神状態は正常なのか。それとも錯乱状態(話しかけても返答しない)なのか。
→ご質問の恐水症状のある時は、神経過敏な状態にあり、ちょっとした光や風を嫌う。その場合、精神不安が強いだけで、錯乱状態ではなく、意識はしっかりしている。

(8) 発症したら助からないようだが、病院としては死亡するまでどのような処置をとって見守ることになるのか。
→一旦、発症すると、補液、人工呼吸、ICU対応などの対症療法のみで、残念ながら実際は看取りの治療になることがほとんど。

(9) 狂犬病による年間死亡者数は世界では5万5000人(推計)、フィリピンでは約250人、インドでは3万人、中国では約2500人(伝染病による死亡者数の20%を占め、伝染病死亡原因の第2位)と聞く。このように狂犬病死亡者の大半はアジア地域(数が合いませんが3万1000人)とアフリカ地域(2万4000人)のようだが、その理由は発展途上による医療体制の不備のためか。また、インドが特に多いようだが、これは何か宗教的(犬を殺してはいけないとか)な理由があるのか。
→大きな原因はその国のワクチン行政にある。例えば、スリランカなど社会主義国家では、医療費が無料のため経済的な理由で高額なワクチン接種に消極的であるし、仏教国のため、犬を野放しに飼う習性がある。首論がない犬が多いため、例え、ワクチン接種をしても、どの犬が済んで、どの犬が未接種かなど分からない。尚スリランカの狂犬病ワクチン接種センターが2004年のスマトラ沖地震、津波で破壊され、いまだに機能していない。その他、発展途上国の国々では、スリランカと同じような傾向が見られる。

(10) 日本のように狂犬病を撲滅できているケースというのは、世界的にみれば非常に稀なケースといえるのか。
→日本は衛生事情の向上、飼犬へのワクチン接種の徹底化、島国であるため野生動物が少ない点が有利に働いて、狂犬病フリーの国になった。同じような理由としてオーストラリア、ニュージーランド、台湾、ハワイなど島国は、狂犬病フリーの国である。

(11) しかし、これだけ発症国に囲まれているとなれば、日本でも一時的でも流行してもおかしくないといえるのではないか。もし、そのようなことが考えられるとすれば、狂犬病が上陸する経路にはどのようなケースが考えられる(危惧されているのか)のか。
→ヒトからヒトへの感染はないので、狂犬病の広がりは考えられない。

(12) 中国では、雲南省や北京市では野良犬の処分、大型犬の飼育を禁じたり、頭数制限したとあり、先日北京では2000人の愛犬家によるデモがあった。しかし、狂犬病予防を考えるとしたら中国政府のとっている政策は仕方がないといえるのか。それともやり過ぎといえるのか。
→前にも述べたように、中国では1家に1匹犬政策を進めていることと、野犬狩りがおこなわれており、それなりの狂犬病予防につながっていると考えられるが、未だ中国南部ではワクチンを受けていない犬がおり、狂犬病発病が絶えない。

(13) 実際に海外旅行や出張など、短い滞在であればワクチン接種して出かけた人は少ないと思うが、そのような人たちのために、これだけは心がけておいてもらいたい注意事項とはどのようなことなのか。
→筆者の医院(※)では、狂犬病流行国への赴任と旅行する人には狂犬病ワクチンをWHO方式で3回(0日-7日-28日)接種している。また、野良犬や野生動物との接触を避けるようなアドバイスしている。尚、日本では一般に(0-1ヶ月―6ヶ月)の3回接種がおこなわれているようだ。

(※)「おおり医院」
TEL:0465-75-0056/FAX:0465-75-1997
メールアドレス:spiders211@yahoo.co.jp
ホームページURL・http://www.kokoga-e.com/dr_oori/index.html

(14) 海外では犬だけでなく、哺乳類であれば何でも噛まれたら、とにかく狂犬病のことを心配して現地の病院へ行ったほうがいいといえるのか。
→前途のように最も気をつけるのが犬、その他、表で示した野生動物には特に気をつける必要がある。噛まれたら、直ちに現地の病院を受診し、抗狂犬病ガンマグロブリン(RIG)とワクチン接種を受けることが必要。

(15) 海外で噛まれた場合、現地の病院へ行って治療を受けたあと、帰国後どのような対応をすればいいのか。
→帰国後もガイドラインにそって、ワクチン接種をうける。接種間隔は(0日-3日-7日-14日-25日-90日)の方法をとる国が多い。

(15) たとえ海外で狂犬病に感染している動物に噛まれたとしても、発症前に早くワクチン接種をすれば100%発症を防ぐことができるといえるのか。
→日本を離れる前に予防接種を3回接種したとしても、現地で噛まれた後は、抗狂犬病ガンマグロブリン(RIG)と暴露後ワクチン接種をうけることが原則である。ともかく早く治療を受ける必要がある。


表 地域別主要狂犬病ウイルス伝播動物

地域主要狂犬病ウイルス伝播動物種
ヨーロッパキツネ、オオカミ
北米アライグマ、スカンク、キツネ、コウモリ
中南米イヌ、コウモリ
アフリカイヌ、マングース、ジャッカル
アジアイヌ