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ニュースレター(機関紙)

JOMF派遣医師便り
NL11090101
シンガポール、フィリピン、インドネシア、医療事情 / / / / / / / / / / /

◆シンガポール

シンガポール日本人会クリニック
日暮 浩実

◇“新型”インフルエンザの世界的流行に備えて

2009H1N1インフルエンザ
2009年に新型インフルエンザが世界的に流行しました。当初は死亡率6%と報道され、世界を震撼させましたが、約1年後の統計を見ますと、日本での死亡率は約0.001%、シンガポールでは約0.005%とむしろ従来の季節性のインフルエンザよりも低く、世界的にも従来の季節性インフルエンザより死亡率、重症化率が際立って高かったということはありませんでした。

2009年当時、新型といわれたこの2009H1N1インフルエンザも2011年4月から季節性インフルエンザという名称に変えられています。

この新型インフルエンザが流行る前、死亡率の高い(60%程度)トリインフルエンザがヒト型に変わり、人の間で流行るのではないかと恐れられていました。このため、世界各国は様々な対策を立てました。ちょうど、そうした時期に、この新型インフルエンザが出現したわけです。そこで、各国ともこのトリインフルエンザのために立てた対応策を使ったわけですが、この対策は病原性の強いトリインフルエンザを念頭に置いていたため、実情と合わないところもあり、改訂が求められていました。

日本では、この8月15日に新型インフルエンザに関する関係省庁対策会議が、新型インフルエンザ対策行動計画の改定案を了承しました。2009年の新型インフルエンザを教訓に病原性や感染力に応じて対策を選べるようにしたのが特徴です。また、各都道府県が地域の実情に合わせて柔軟な対策を採ることも可能としています。

トリインフルエンザ
2009H1N1インフルエンザの世界的流行のあと、あまり話題に上らなくなった (H5N1)トリインフルエンザですが、決して危険が去ったわけではありません。依然くすぶり続けています。2003年以来、世界15カ国で人への感染が報告されています。今年は8月末までに世界で49名の報告例があり、うち25名が死亡しています。内訳はエジプトで32名(死亡12名)、カンボジアで8名(全員死亡)、インドネシアで7名(5名死亡)などとなっています。2003年から今までの累計では世界で565名の患者が確認され331名が死亡しています。死亡率は58.6%となります。
 
シンガポールでは幸いにも人がトリインフルエンザに罹患したという報告は現在まで1例もなく、また、野鳥の死骸からトリインフルエンザウイルスが見つかったという報告もありません。

トリインフルエンザがこのままトリ型であれば、人の間で大きく流行することはないわけですが、遺伝子変化が進行していることは既に確認されており、近い将来、新型のヒトインフルエンザが出現し、大流行することが危惧されています。
 
抗インフルエンザ薬の備蓄と使用
シンガポール保健省では居住人口の25%が罹患すると想定して対策を立てています。これに従い、シンガポールでは人口の25%に当たる分の抗ウイルス薬を備蓄しています。
耐性ウイルスの発現の確率を下げる意味註1と、生産数に限りある薬の有効活用のため、抗ウイルス薬の使用にはシンガポールには指針があります。

指針では、発病した患者さんが薬を服用するのはもちろんですが、流行の初期(封じ込めの時期)においては患者さんと濃い接触をした人には、感染を局所に封じ込める意味から、積極的に予防的にも使います。また、治安維持に必要な警察や政府の機関、食料やエネルギーの配給に携わる人々など社会機能の維持に必須な人々には患者さんとの接触の有無にかかわらず予防内服(6週間程度)が行われます。

封じ込めきることは実際には難しいため、いずれ流行は拡大の時期を迎えます。流行が拡大してしまったら、接触が濃くても原則的には曝露後予防内服は行われません。予防的に薬を服用しても免疫はできず、有効なのは服用している期間(10日間)だけであるため、服薬が終われば、また感染する危険が生じてしまいます。流行拡大期にはその機会はいくらでもあります。そのため、皆が曝露後予防内服をしようとすると人口の何倍もの数の薬が必要となってしまいます。これは経済的にも、薬の生産能力からも不可能な話です。しかも曝露後予防内服をしても100%予防できるわけではなく、成功率は80%程度とされています。さらに、一般に薬は使えば使うほど耐性ウイルス(薬の効かないウイルス)の出現の機会を増すことになります。最近出た新薬についても、これから出るであろう新薬についても同じことが言えます。既にタミフルの耐性化が進んでいます。予防内服をした患者さんからの耐性ウイルスの発現率が高いとして世界保健機構(WHO)では、2009年9月に原則として予防内服はしないようにという発表を出しています。

耐性ウイルスが多くなることは、有効な治療手段がなくなることを意味します。これは是非とも避けたいことです。

一旦、大流行となれば、結局のところ、大多数の人が免疫力を持つまでは流行は終わりません。そして、免疫力をもつには実際に、病気にかかるか、ワクチンを打つかしかありません。
 
インフルエンザワクチン
ワクチンのなかった昔は、事実上、多くの人が病気になることだけが、流行を終わらせる道だったわけですが、現代にはワクチンがあります。
しかし、現行のインフルエンザワクチンは、実際に流行が始まらないと作り出すことが出来ません。ワクチンが出来るまでには数ヶ月を要します。その上、ワクチンの開発、生産会社がないシンガポールでは、他の国に発注することになるため、ワクチンを広く一般に使用できるようになるまでに、9-12ヶ月かかると考えられています(ちなみに2009年の新型インフルエンザの際には6カ月半ほどでした。)現在、今までとは作用機序が異なり、ウイルスの型が変わっても効果が期待できるワクチンが開発中です。これができれば大流行を未然に防げるわけですが、完成までにはまだ時間がかかりそうです。

プレパンデミックワクチンはどうでしょうか?これはあくまでも大流行する新型ウイルスを予想して作るものです。そのため、生産量や運用の仕方は大変難しいものとなっています。
 
季節性のインフルエンザワクチンは新型のインフルエンザには効きませんが、鳥との接触が多い方は、従来の季節性インフルエンザとトリインフルエンザとの同時感染による新型ウイルスの発生を抑える意味で、季節性のインフルエンザの予防接種をしておくことが特に薦められます。

私たちはどうすればよいのでしょう? 
大流行を前提に考えるとき、薬はワクチンができるまでの“つなぎ”と考たらよいのではないでしょうか。ワクチンが皆に行きわたるまでの間、薬が有効性を保っていてくれれば心配は少なくて済むでしょう。薬が耐性になる確率を少しでも減らすには、なるべく薬の使用量を少なくて済むようにすること(註1)、そのためになるべく患者数を増やさない努力が求められます。

ではどうすればよいのでしょうか?特殊なことはありません。私たちに出来る地道な事をするだけです。

シンガポール保健省のインフルエンザガイドブックに因れば、私たち個人でできることは、まず、第一に、普段から、体力の維持につとめることです。当たり前のことですが、病気に勝つためには体力が基本です。また、普段からうがいや石鹸を使って手洗いをする習慣をつけることも大切です。マスクも準備しておきましょう。(マスクは自身が患者さんになった時のための普通のマスクと、患者さんを介護する側に回った時のためのN95マスクも準備しておくと良いでしょう。)

急激な流行に備えて2週間以上の食料や水、その他生活必需品の備蓄をしておくことも薦められています。シンガポールの医療は確かに発達していますが、この国は食料、エネルギーのほとんど全て、水も多くを輸入に頼っているため、物資の供給の不足に備えておくことは大切なです。また、備蓄は買い物に行く機会を減らして、流行の拡大を抑制する効果も期待できます。

常に新しい情報を得るように心がけることも大切です。

流行初期は封じ込め期です。流行の拡大は不可避と考えられますが、皆が努力すれば、少しでも流行の拡大を遅らせることが出来るかもしれません。
ちなみに2009H1N1インフルエンザの時のシンガポールの様子を振り返ってみましょう。メキシコでの最初の報道の後、入管での検温や、新型インフルエンザ発生国からの入国者の隔離、疑い患者さんや発病した患者さんははすべて隔離されるなど、様々な方策が採られました。
メキシコでの第一報のあと、シンガポール国内で最初の感染者(アメリカからの入国者)が見つかるまでに33日が過ぎました。その後、感染者がでている国からの帰国者で感染者が相次いで報告され、渡航歴のない患者さん第1例の確認までさらに13日が過ぎました。その一週間後ぐらいには、接触歴不明の患者さんが見つかり始め、急激に患者数が増えていきした。そして、最初の渡航歴のない患者さんが見つかってから25日目に、最早、封じ込め期が過ぎ去ったことが宣言され、感染拡大期となりました。メキシコでの発生の報から71日目のことでした。
これが長いか短いかはわかりませんが、この時の経験は次に生かされると思います。

御自身が新型インフルエンザにかかったらしいと思ったら
まず、マスクをしましょう。咳やくしゃみの中には多くのウイルスが含まれているため、マスクをすることで、ウイルスの拡散を減らすことが出来ます。

人ごみに行くことは避けましょう。バスなどの公共交通機関も避けましょう。ドアのノブもなるべく触らないようにしましょう。

医療機関にお越しになる時はマスクをしてお越しください。流行初期(封じ込め期)では予め連絡してから、御来院ください。そうしませんと病院は病気を治す場ではなく、病気を広める場となってしまいます。どうか、ご協力ください。

また、具合が悪いのに無理をして、学校や会社に行くことは考え物です。<こんな熱ぐらいで休めるか>と思うかも知れません。しかし、その日に無理をすることは決して得にはならないはずです。相手は新型インフルエンザで世界中の誰も抗体を持っていません。その方が、学校や会社へ行けば、あっという間に病気は広まってしまいます。多くの人が会社を休めば経済は停滞し、犠牲者が多く出れば社会が維持できなくなってしまいます。

感染を広めるのは、ほかならぬ私たち自身です。一人一人の他人思いの行動が大切です。
 
泰然と構える
さて、いろいろ不安になるようなことも書いてしまいましたが、最後に、世界を席巻したスペイン風邪が流行った大正7-8年の頃の医療事情を考えて見ましょう。この頃はウイルスという病原体すら確認されておらず、ワクチンも抗ウイルス薬もなく、高熱による脱水の治療のための点滴もできず、また、続発する細菌性肺炎に対する抗生物質もなく、国民の平均的な栄養状態も今に比べ不良だったはずです。そんな時代に日本では全人口の42%がスペイン風邪にかかりました。しかし、98.4%の人は生還しました。確かに、多くの犠牲者は出ましたが、生還した人のほうが圧倒的に多かったのです。

心配しすぎず、しかし、可能な範囲で備えをしていくということでしょうか。
 
註1:タミフルに耐性を示すインフルエンザウイルスは2007年ごろから増えはじめました。皮肉にも(?)タミフルの使用量の少ない南アフリカや北欧などの国々で最初に耐性率が高くなりました。



◆マニラ

マニラ日本人会診療所
菊地 宏久

◇ 「咳どうにかしてください!」―マイコプラズマ気管支炎・肺炎

雨季になってからマニラでは「長期に続く咳症状」の患者さんが非常に多く受診しています。大気汚染やカビによるアレルギー症状の方もいます。稀に肺結核や腫瘍の患者さんもいます。しかし大半を占めるのではないかと思うほど多いのがマイコプラズマ感染症によると思われる気管支炎や肺炎の患者さんです。このようなわけで今回はマニラのマイコプラズマ感染症について書きます。
 
マイコプラズマによる気管支炎や肺炎はマイコプラズマという病原体の気道感染によって起こります。症状で特徴的なものは「咳」です。マイコプラズマ感染症患者さんのほぼ全例で認められる症状は「長期に及ぶ頑固な咳(夜間に増悪することが多い)」です。最初は乾いた咳(痰が出ない咳)ですがだんだんに痰も伴うようになってくる方もいます。痰に血液が混じっている方もいます。発熱や他の症状が消えても頑固な咳だけが残り、しかも咳はだんだんにひどくなってきます。咳はなかなか改善せず長い方は1-2か月続く方もいます。受診患者さんの年令は幼児期から成人期までにわたっていて、基本的には基礎疾患がない普段は健康な方々が発症しています。

マイコプラズマ感染症でも1-2日目の初期症状が“発熱だけ”の患者さんもいます。この時期に受診した場合には当地ではインフルエンザ(マニラではインフルエンザは雨季にも流行します)やデング熱、腸チフスなども鑑別が必要になります。また1カ月以上長期に咳が続く場合は肺結核や腫瘍なども鑑別診断として考えなくてはなりません。
 
マニラにおけるマイコプラズマ気管支炎・肺炎では頑固な咳の他に声枯れ、耳痛、喉の痛み、胸痛、消化器症状などを認められる方も多くいます。また少数ですが皮疹を伴っている方もいます。一般の肺炎と同じように重症化した肺炎の場合には入院加療が必要となることもあります。胸水貯留(胸膜腔内に炎症性の液体が貯まる)も珍しいことではありません。
マイコプラズマ気管支炎・肺炎の呼吸器以外の合併症としては中耳炎、髄膜炎、溶血性貧血、肝障害、不整脈なども認められます。(文献上は他に心筋炎やギランバレー症候群なども認められます)
アメリカでは毎年200万人のマイコプラズマ感染症患者が発症し、10万人がマイコプラズマ肺炎で入院していると推計されています。

理学所見では聴診上「乾性ラ音」が特徴的とされていますが、患者さんの病態の時期により様々の肺雑音が聴かれます。レントゲン像も様々です。また血液検査では白血球は正常範囲か軽度上昇にとどまっていることが多く、血小板は正常か減少している方が多い印象です。医学テキストに書かれているような典型像はマニラの患者さんにおいては多くない印象です。

治療は適切な抗生剤投与と症状に合わせた対症療法です。これらによって多くの患者さんは元気に回復していますが、咳の持続期間は免疫状態よってかなり個人差があるようです。早い方は3-4日で咳が改善していますが、長い方は薬を飲んでいても1カ月以上にわたり咳が持続しています。

以下にマイコプラズマ気管支炎・肺炎に特徴的とされる事柄・症状を書きます。
・患者さんは頑固な咳があり、特に夜に増悪する
・患者さんは病状初期には痰がからんでいない
・患者さんは基礎疾患が無く通常は元気である 
・患者さんは年令60才未満である(小児~成人) 

これらの特徴に思い当たる方は近くの医療機関を受診してご相談下さい。
一日も早い回復をお祈りしています。
お大事にしてください。



◆ジャカルタ

ジャカルタ・ジャパンクラブ医療相談室
原 稔  

◇冠攣縮性狭心症(異型狭心症)
 
動脈硬化によって冠動脈が狭くなると、体を動かして心臓の筋肉の酸素消費量が増えた時に、その需要に供給が追い付かなくなり、胸痛発作を起こします。労作性狭心症です。

これとは別に、動脈硬化による狭窄とは違う原因で起こる狭心症があります。冠攣縮性狭心症(または異型狭心症)と呼ばれるものです。
冠動脈の一部が痙攣(収縮)することによって引き起こされます。労作性狭心症が体を動かした時に症状が出るのに対し、冠攣縮性狭心症の場合は安静時に起こります。夜間から早朝に胸が痛くなることが多いです。
冠動脈に器質的な狭窄が無いので、発作が起こっていない時に検査をしても異常が出にくいのも特徴の一つです。労作性狭心症は、運動負荷心電図検査で異常がわかる事が多いのですが、冠攣縮性狭心症ではわかりません。心臓カテーテル検査を行って冠動脈を造影しても、平常時は異常が見つかりません。冠動脈の収縮を誘発する薬を使って初めてわかります。

日本人の狭心症のうち4割はこのタイプと言われています。欧米人に比べて高い比率です。
要因として、喫煙、(過度の)飲酒、高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満、ストレス等が挙げられます。ジャカルタ生活を送っている方で、これらが当てはまる方は多いのではないでしょうか。
診断がつけば、治療は内服薬がよく効きます。
 
さて、診断には心臓カテーテル検査における冠攣縮誘発試験が必要になる事があるのですが、どこで検査を受けたらいいのか悩む方が多いと思います。
もし、私自身がこの病気の疑いで心臓カテーテルを必要とする時は、日本で検査を受けます。勿論、ジャカルタでも可能です。以前、心筋梗塞で緊急心臓カテーテルが必要な場合は、ジャカルタでの治療をお勧めしました。しかし、この場合は状況が違います。緊急性がありません。待機的に検査が可能です。検査自体が、血管に針を刺し、カテーテルを挿入する訳ですから、体に侵襲が加わり、低いながらも何らかの合併症の危険性はあります(これは日本でもそうですが・・・)。状況が許すならば、母国語でコミュニケーション出来て、自分が最も納得できる環境で検査します。
 
心臓カテーテル検査に限らず、侵襲を伴う検査や治療を受ける場所の決定は、病状のみでなく、家庭や会社の状況も勘案した上で、其々に判断する必要があります。

(以上)