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「海外生活と水」

海外医療事情レポート21ミャンマー

在ミャンマー日本国大使館
医務官 高橋 健二


 1. 一般事情

 ミャンマーはインドシナ半島の西端、北緯10~28度に位置し、約68万平方キロの面積を有し、総人口は約4600万人(1996年)、首都ヤンゴンの人口は約300万人と推定されている。
 民族数135にのぼる多民族国家であり、ビルマ族が人口の約70%を占め、以下シャン族、カレン族、ラカイン族と続く。
 全国は7管区(主としてビルマ族が居住する地域)と、7州(居住者の主体が非ビルマ族)から成る。
 ほぼ全土が熱帯モンスーン気候に属し、暑季(3月~5月中旬)、雨季(5月下旬~10月中旬)、涼期(10月下旬~2月)の3季に分けられる。
 仏教徒(上座部仏教)が国民の90%近くを占め、仏教の影響が日常生活の随所に見られる。

 2. ミャンマー病院事情

(1) 医療施設は公立病院が主体で、各管区、州の中心都市には総合病院があり、各地域の基幹病院としての役割を担い、地方都市には人口規模に応じた公立病院が設置されている。各施設での、医療機器、器材の不足や老朽化は深刻で、医療環境整備を妨げる大きな要因となっている。
  基本的に無料だった医療費に1994年から薬剤費用の自己負担制度が導入された。その後負担の範囲が拡大され、検査、手術などの患者負担は一般的になり、診察料、室料なども徐々に有料化が進行しつつある。
  必要な薬品は、病院に併設された薬局又は街中で購入することになるが、基本的に、処方箋なしで、麻薬、向精神薬以外の全ての薬剤が購入可能。
 保管状況に懸念が残るが、偽薬が問題になることは少ない。一般的に薬剤は非常に廉価であるが、入手可能な製品の種類は限られる。
  全国の病院総数は約700.総ベッド数は約30,000、人口1万人あたりでは6床しかない。これらを補完するかたちで、特に都市部を中心として、民間病院の設立が増加している。

(2) 医師数は人口10万対30人、歯科医師数は人口10万対2人と絶対数が不足していることに加え、医療関係者の都市部への集中傾向が顕著なため、特に地方での医療環境がより厳しいものとなっている。
  因みに都市部と地方の平均寿命は以下の通り。

(1994年)
男性:都市部60.2歳、地方59.7歳
女性:都市部64.1歳、地方61.8歳

  全国で4校の医科大学(うち3校はヤンゴン)があり、毎年誕生する医師総数は600人である。医学教育は英語で行われるため全ての医師が英語を解するが、医師以外の場合、病院内でもしばしば英語での意思疎通に不便を感じることが多い。
  公立病院の給料は極めて低額なため、医師はいくつかの医療機関で掛持ち診療することが多い。このため、家庭医的存在の医師を見つけるのが困難である。他に転職したり、外国へ流出する医師も少なくない。

(3) ミャンマーの看護婦の数は、医師総数よりも少なく、少々奇異な印象を受ける。この現象は、一部のイスラム諸国などに見られる社会的制限などとは無縁で、単に看護婦養成機関が十分に整備されていないことが主因と考えられる。
  看護婦の他に助産婦がいるが、ミャンマーの助産婦という職種には但し書きが必要である。看護学校は日本と同じく3年制であるが、助産婦学校の場合、全ての過程が1年半で終了してしまう。卒業後は、医師もいないような辺境地域でのあらゆる保健相談に応じることが助産婦の主な業務となる。
  病院の検査施設、医療機器が不足しているために需要が少ないことも一因であろうが、パラメディカルスタッフは少ない。パラメディカルスタッフの養成機関は全国で1カ所しかなく、レントゲン技師、検査技師、理学療法士の3部門各々の定員は、1学年わずか25人に過ぎない。薬剤師の養成機関もやはり1カ所のみで、1学年の定員は50人である。

 3. 病院紹介

 邦人の90%以上はヤンゴンに存在しているので、ヤンゴンの医療状況がそのままミャンマー在留邦人の医療環境と考えてよい。
 邦人疾病対策の基本として、分娩、手術、要精査の患者には、可能な限り出国して治療を受けることを勧めている。歯科治療は、日本出発前に終わらせておくのが原則と考えるが、簡単な治療であれば当地でも可能。
 当地の輸血用血液はHIV検査を行う建て前だが、検査器材の不足等により確実になされているとは考えにくく、また、C型肝炎の検査は全く行われていない。このような事情から、当地における輸血は、万止むを得ない場合を除き避けることを基本方針としている。
 追記すると、ヤンゴンにおいてさえ電話事情は良好とは言えず、しばしば連絡に長時間を要する。また、一部の病院では救急車を所有しているが、搭載している医療器材もごく少ない。緊急の折には、手近な車で、直接病院に駆け込むのが最も早く、確実である。(米ドルと、当地の通貨であるチャットさえあれば、後は一切不要。)

(1)ヤンゴンの公立病院

  ①YANGON GENERAL HOSPITAL(ヤンゴン総合病院)
    住所:Bogyoke Aung San St., Latha T/S., Yangon.
    電話:281722、289908、280440~442.
    1400床、医師数約200、看護婦数約400。
    当国における最高、最大の総合病院。 産婦人科、小児科、眼科及び耳鼻科以外の全科診療。CT有り。

  ②NEW YANGON GENERAL HOSPITAL(新ヤンゴン総合病院)
    住所:Corner of Bogyoke Aung San St. & Pyay Rd., Dagon T/S.
    電話:283022、283097~8
    220床、内科、外科、泌尿器科の3科。医師数約40、看護婦数約80。
    外来は週2日のみ。CT、MRI有り。日本の援助で建てられた病院。

  ③CENTRAL WOMEN HOSPITAL(中央女子病院)
    住所:Min Ye Kyaw Swar St., Lanmadaw T/S.
    電話:222804~6、222811
    約800床。医師数約60、看護婦数約150。年間の分娩、手術は共に約12,000件。
    新生児死亡率は26.8、周産期死亡率は33.0、母体死亡率は3.3(いづれも1000対)。

  ④YANGON CHILDREN HOSPITAL(ヤンゴン小児病院)
    住所:2, Pyihtaungsu Yeiktha St., Dagon T/S.
    電話:222807、222808、222810、221421
    約550床。医師数約50、看護婦数約130。

  ⑤EENT HOSPITAL(眼耳鼻科病院)
    住所:30, Nat Mauk St., Tarmwe T/S.
    電話:553957、553956
    約150床。医師数約55、看護婦数約40。

 以上1~5は、ヤンゴンの医療機関の中枢となる公立病院。名称からも容易に推察できるように、産婦人科、小児科、眼科及び耳鼻科の患者を3、4、5が引き受け、他の全てをヤンゴン総合病院が受け入れる体制となっている。(外傷の場合は、小児もヤンゴン総合病院のことが多い。)新ヤンゴン総合病院は現在は独立しているが、ヤンゴン総合病院の分院的な存在。緊急事態であれば、これらの病院に駆け込むのが最良の選択と考えられる(年間無休、24時間受診可能)が、通常、邦人が公立病院を受診することは殆どない。

(2)ヤンゴンの私立病院

  ①PACIFIC MEDICAL CENTER(PMC)
    住所:81、Kaba Aye Pagoda Rd.
    電話:548022 FAX:542979
    シンガポール資本の民間クリニック、外来診療のみ。GP3人。この他に、日本で研修し、流暢な日本語を話す歯科医が勤務している。受診者の大部分が外国人。予防接種可。

  ②ASIA EMERGENCY ASSISTANCE CLICIC(AEAクリニック)
    住所:The New World Inya Lake Hotel, 37 Kaba Aye Pagoda Rd.
    電話:667879 FAX:667866
    シンガポールに本社を持つ緊急移送会社のクリニック。
    本来は会員用のクリニックだが、会員以外でも受診可。医師3人、外来診療のみ。予防接種可。

  ③SAKURA MEDICAL CENTER
    住所:23 Shin Saw Pu Rd., Home Lane Block, Sanchang T/S.
    電話:247293、513886、510079、513887 FAX:510131
    ほぼ全科を診療する私立の総合病院。200床を有し、歯科も併設。病院名のSAKURAは日本の桜花に由来する。常勤、非常勤併せた医師数は40名以上。年間無休、24時間体制。循環器センター設立とCT導入が予定されている。

  ④BAHOSI MEDICAL CENTER
    住所:No. B(31-36), Bahosi Housing Complex, Wardan St., Lanmadaw T/S.
    電話:224301、224548、224667
    90床を有し、ほぼ全科を診療する私立病院。常勤医13名の他、非常勤の専門医が勤務。
    年間無休、24時間体制。

(3)ヤンゴン以外の病院
  参考までに、邦人がしばしば訪れる観光地の病院名をあげておく。
  ①MANDALAY GENERAL HOSPITAL(ミャンマーの古都マンダレー)
  ②NYAUNG OO PEOPLE’S HOSPITAL(仏教遺跡として著名なバカンの近傍)
  ③THAUNGYI SAI SAN HTUN HOSPITAL(インレー湖周辺の中心都市タウンジー)

 4. 疾病状況

 当国保健省が中心となり1996~2001年にかけて「国民健康計画」を実施中であるが、その指針の一つとして、重点的に取り組むべき39疾患を取り上げ、各々に優先順位をつけて列挙している。疾患の優先順位は、ミャンマーが直面している疫病状況を如実に表しているものと考えられるので、これに従って説明する 。

①マラリア:
 ミャンマーでの最重要疾患。首都ヤンゴン、第2の都市マンダレー市内を除けば、全土がマラリア危険地帯。全国の病院患者総数の1/6、死亡者総数の1/5をマラリア患者が占める。マラリア患者の死亡率は3.4%。マラリアの種類は熱帯熱マラリアが80~85%、三日熱マラリアが15%程度、四日熱マラリアが1%以下という比率。防蚊対策が基本であるが、予防薬としては、主にメフロキンが使用される。

②結核:
 近年患者数の増加傾向が見られ、HIVとの関連でも重要視されている。結核罹患者発見のための組織的対策が殆どなされていない、治療を開始しても経済的理由による中断者が多い、等の現状を見れば、一部を除き野放し状態に近いと考えられる。
 在留邦人は使用人を雇うことが多いが、雇用時の要注意疾患。

③エイズ:
 ミャンマーで初めてHIV感染者が確認されたのは1988年。以降、静注薬物使用者を主体にHIV感染は拡大して来た。しかし、1995年には異性間の性交渉がエイズ感染原因の第1位になり、並行して、性産業従事女性間でのHIV感染率は急速に上昇し、1996年には20%を越えた。ミャンマーのエイズ患者総数は1997年で約1800名とされているが、これは氷山の一角に過ぎないものと推察される。当国政府機関は、ミャンマー全土で約45万人のHIV感染者がいるものと推定している。

④下痢、赤痢:
 特に小児の間では深刻な疾患で、衛生知識の普及とORS(経口補液剤)主体の対策が図られて居る。コレラも発生しているが、通常下痢性疾患として包括されてしまって、原因菌の検索はなされていないのが実情。(コレラは単独で⑯にリストアップされている。)また、当地で赤痢と言った場合、通常アメーバ赤痢を意味する。
 安全な水の供給率は、都市部で49%、地方で44%(1995年)とされているが、当方で行った邦人家庭の水質検査によると、大腸菌群が検出されない水は極めて少数であり、水道水、井戸水に拘わらず、各家庭の蛇口から出る水は汚染されているものと考えた方がよい。

⑤栄養失調:
 低体重出生児が多く、特に小児の間では、蛋白質、ヨード、ビタミンA等の不足がしばしば問題となる。当地の妊婦に対しては、一律に鉄剤と葉酸を投与するのが一般的である。
以下、⑥性病、⑦薬物乱用(ご存じ黄金三角地帯)、⑧ハンセン病、⑨流産(当国では基本的に人工流産は違法なため、稚拙な技術、劣悪な施設環境に起因する人工流産の合併症も多い。)⑩貧血、と続くが、その他のいくつかの疾患について説明を加える。

⑪蛇咬傷:
 ヤンゴン市内でも稀に見られるが、地方、特に農村が多発地帯である。ミャンマーでの有毒蛇咬傷の90%近くはRussell's Viperによるもので、受傷部位の80%以上が下腿下部であることは対策を考える上で重要。死亡率は10%前後で、年間2000人が死亡している。(1991年)

⑬ウイルス性肝炎:
 A型肝炎はごく有りふれた疾患であり、抗体陰性の成人ではワクチン接種は必須。(通常、ミャンマー人の間では抗体保有率が高いため、A型肝炎は殆ど問題にならない。)
 B型肝炎のキャリアーは10%以上と推定されている。
 C型肝炎キャリアーは多数存在していると推察されるが、通常の医療機関では検査は不可能。
 E型肝炎は存在するが、当地での確定診断は不可能。

⑰デング出血熱:
 デング熱、デング出血熱についての当地診断は信頼性に欠けるため、正確な状況は不明。3~4年毎に流行年があり、少なくともヤンゴン在住の邦人にとってはマラリア以上に危険な病気。

⑱狂犬病:
 保健省資料によると人口10万あたり6件と推定しているが、正確なところは不明と言わざるを得ない。ヤンゴン総合病院では、1996年の1年間で19人が狂犬病のために死亡している。犬の予防接種も経済的理由から不十分(特に低所得者の居住地域)なので、たとえ飼い犬であっても信用できない。

⑳Worm Infection:
 蛔虫が圧倒的に多く、鞭虫や蟯虫が続く。邦人の間でもしばしば発生する。
 この他、34位に腸チフスがあげられている。アメーバ赤痢などと比較すれば格段に発生頻度は少ない印象。しかし、当地の細菌培養の検査体制が不備なため、腸チフスが疑わしい患者では非常に苦慮することになる。
 また、整備不良車が無秩序に走り回っているヤンゴンの街を見ていると、邦人にとって交通事故の危険性は、重要疾患リストの各疾病よりも上位に位置するのではないかとも思う。

 5. 予防接種

 ワクチン品質の信頼性、保管状況、使用器具への懸念、副作用発生時の対応や保障の問題等を考慮すれば、原則的に本邦で接種を済ませておくことが望ましい。

①幼児、小児に勧める予防接種
 基本的に日本と同様に考えてよい。三種混合、BCG、ポリオ、麻疹等は必須。(ポリオについては、日本で通常行われている2回接種では不十分。少なくとも3回の接種を勧める。)乳幼児の場合にはB型肝炎ワクチンも接種しておいた方がよい。上述したように狂犬病が常在するのでワクチン接種を勧めているが、邦人の接種率はあまり芳しくない。車での移動が多く、野犬に遭遇する機会が少ないため、危険性をあまり身近に感じていないのがその一因と推察している。
 日本脳炎については少し説明が必要である。日本では当然の如くミャンマーは日本脳炎の汚染地域とみなされているが、タイとの国境地帯を中心に不顕性感染例の報告はあるものの、1979年以降日本脳炎患者は報告されていない。当地の小児科医もこの病気に関しては殆ど無関心であり、1989年以後は、当国の重要疾患リストからも削除されたままである。ワクチンを接種しておくに越したことはないが、ヤンゴンの生活に限ればその必要性は低い。

②成人に勧める予防接種
 A型肝炎ワクチンは絶対。破傷風も最低限必要。職業柄フィールドへ出かけることの多い人には狂犬病。

③当地の医療機関で可能な予防接種
 乳幼児を対象とした三種混合その他は小児病院でも接種可能だが、邦人は主として私立のクリニックを利用する。この他、バンコックやシンガポールで接種する人も多い。
 当地のクリニックで、日本脳炎も含めて上述したワクチン全てが接種可能。この他に、MMR、腸チフス(注射)、コレラ、黄熱などのワクチンも常備している。(在庫切れということもままあるが。)

 6. おわりに

 以上、ミャンマーの医療について概説した。当地の医療環境は急速に変貌しつつあり、政治的にも経済的にも流動的な要素が多く、先の見通しが立てにくい。
 上述した内容は、1998年5月時点でのミャンマーの実状に基くものである。
 ミャンマーを訪れる方の一助になれば幸いである。

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