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海外生活とSTD対策

フィリピンの性感染症状況

JJC医療相談室 横内 敬二

はじめに

 今回のレポートの元になっている情報は、WHOとUNAIDSのHIV/AIDSと性感染症についてのサーベイランス(合同事業として1996年11月に開始された)、NGO等の報告、各国医学論文、フィリピン出版物、医療従事者を含むフィリピン人や日・比人プロモーターと水商売女性への聞き込み、スラム地域への視察、日本人クリニックの患者統計による。

略語集
AIDS acquired immunodeficiency syndrome 後天性免疫不全症候群
FSW female sex workers 女性性産業従事者
GRO guest relation officers 比人水商売従事者
HIV human immunodeficiency virus ヒト免疫不全ウイルス
STI sexually transmitted infection(s) 性感染症
UNAIDS United Nations Program on HIV/AIDS 国連HIV/AIDSプログラム
WHO World Health Organization 世界保健機関

国情報

人口統計

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総人口 2001年 7713万1000人
15歳~49歳までの人口 2001年 3960万人(全人口の51.3%)
人口増加率 1995~2000年 2.0%
都市人口率 2000年 59%
都市人口増加率 1995~2000年 3.7%
識字率 1997年 95%
新生児1000人あたり死亡数 1995~2000 34
5歳までの死亡率 1995~2000 35%
平均寿命(0歳時平均余命)1995~2000 69

性感染症への取り組みと性産業の特徴

 フィリピンは性感染症に対して50年以上にわたって取り組んでいる。多くの市には、市健康局が公衆衛生診療所を経営しており、そこでSTIのスクリーニングと治療が行われ、集められたデータは定期的に上部組織、最終的には保健省に報告される。
 GRO(クラブやカラオケのホステス、歌手、ダンサー等)はすべて、毎週STIのチェックと1カ月に1度HIVのチェックを受け地方自治体より健康許可証をもらって仕事をすることが法律によって義務づけられている(登録GRO(registered GRO))。かかる診療所ではきわめて低料金で、性病のスクリーニングと治療ができ、コンドームも無料でもらうことができる。都市によっては、大学病院などがこの役目を負っているため、登録GROの持つ疾病の種類に関して、大都市のデータはある程度信用できると思われる。ただしSTI感染の数は、後述の理由により推定である。
 売春は法律によって禁止されており、GROとの性交渉は名目上、自由意志に基づいている。客はある程度の料金をGROと店に払ってGROを店外で連れ出す。一方で、最初から売春目的の置屋も実際には数多く存在する
 水商売、特に外貨獲得のための性産業で大きな収入を得られるのは外国人男性からである。従って、性感染症は外国人の多く居住する大都市に集中する。

HIV/AIDS事情


①フィリピンの最初のAIDS患者は1984年に報告され、徐々にその患者数は増加しているが現在のところ「低水準」国に分類されている。いわゆるハイリスク集団で感染者率は1%に満たず、FSWでも最高0.13%である。HIVはフィリピン全国に存在するが、データでは特に大都市周辺に偏在している。
②2001年から2002年上四半期のUNAIDSとWHOの調査によると、HIVに感染している生存者の数は2001年末の時点で9400人と推計され、患者の年齢層はほとんどが15歳から49歳の間にあり、性活動が盛んな時期と一致している。1984年の報告以後、2001年6月までに報告されたHIV感染者は1515人で、この中にはAIDSを発症した患者508人、HIV/AIDS関連疾患による死者196人が含まれる。今後数年間、感染者数はそれほど増加しないと考えられる。
③フィリピンでのHIV感染は性交によるものが83%を占め、異性間接触によるものが61%、ホモセクシャルによるものが17%、バイセクシャルによるものが5%とされているが、後二者は報告されていないものが多いと考えられる。出生時感染は1%で、残り15%が違法薬剤の注射による。
④1997年と1998年の調査ではHIV感染と性感染症にかかりやすい行動パターンがフィリピン人に認められた。2000年の時点で、静脈投与を行う麻薬常用者の52%が注射針の使い回しを行い、FSWの34%が性交に際して何ら防備をしていない。FSWは貧しい地方出身者が多く無教養が主な理由と考えられる。一般比人の7割は通常コンドームを使用しない。
⑤フィリピンにHIV感染症が少ない理由として
  Ⅰ、FSWは一晩に客を多く取らない。
  Ⅱ、注射による麻薬の使用が一般的ではない。
  Ⅲ、フィリピン人男性は割礼されている。
  Ⅳ、梅毒など潰瘍をつくる性病が少ない
 などが考えられている。

1. 2001年末におけるHIV/AIDS感染発症生存者数の推計
  全人数 9400人
  内成人(15歳~49歳) 9400人
  女性(15歳~49歳) 2500人
  子供(15歳以下) <10人

2. 2001年一年間でAIDSによる死亡者数推計
  2001年一年間で、AIDSによる死者数。成人と子供を含む
  720人   (1200人 1999年)

3. 2001年AIDSに関連した孤児の人数推計
  2001年末の時点で、片親または両親がAIDSで死亡した15歳以下の子供生存者数。
  4100人   (1313人 1999年)

その他のSTI

 その他の性病はクラミジアと淋病がFSWの間にかなり蔓延しており、クラミジアは40%以上の割合で感染していると考えられる。淋菌は薬剤耐性菌が多く89.3%がペニシリン耐性、38%がキノロン系抗生物質に耐性を持っている。
 マニラとセブ市の、登録および未登録GRO(FSW)のSTIに対する行動パターンと性病の浸淫度を、1994年7月から9月にかけて行った面接で比較検討した論文によると、セブ市のFSWは未登録が50%を占めるのにたいして、マニラでは18%であった。淋菌の浸淫度は登録FSWで7.2%、未登録FSWで37.8%、未登録FSWの方が登録FSWの5倍感染率が高かった。クラミジアに関しては登録FSWで14.6%、未登録FSWで30.5%であった。未登録FSWは勤務期間が短く、より多く客を取り、感染に対する防御をしない傾向があった。論文は94年であるが、同様の傾向は現在も変わっていないと考えられる。
 以下に、WHOが行った西太平洋域のFSWのSTI調査結果を示す。

日本人会診療所における性病の診断

 2001年の当クリニック来院のべ患者数は7744人、成人6613人で男性が6割(約4000人)を占める。このうち尿道炎を発症した、すなわち排尿時痛and/or排膿等の有症状のある男性は月平均約10例ほどで、年間に100~150例と推察される。
 STIの中には症状の少ないものもあり、当クリニックでは感染者本人が異常に気づき来院した患者のみを診断・治療している。男性で上記症状があれば性病の疑いがあるとして、膿の鏡検や尿中クラミジア抗原のチェックを行っている。ただし、当地ではクラミジア抗原検査は一週間に一度しか実施することができないため、確定診断をせずに症状のみで投薬治療をしている症例が多い。従って来院者の淋菌感染症とクラミジア感染症の割合は不明である。
 女性は淋病とクラミジアに関しては無症状のことが多く、婦人科で検診時にチェックしているが、診断数は2001年200例中2,3例のみのようである。有症状にて来院した女性患者に関してはデータがない。ヒトパピローマウイルス感染による尖圭コンジローマの症例は、検診と患者を併せて年に数人以上はいるようである。いずれも感染源は正確には不明である。
 両性とも梅毒の患者は2001年にはなく、上記尖圭コンジローマは男女併せても数人とわずかであった。STIの患者はほぼ男性に限られ、ほとんどが淋菌and/orクラミジア感染症である。また、STIの性器以外の感染部位については当地では診断法がなく全く不明である。
 HIV/AIDS、軟性下疳は発生していない。2001年時A型肝炎は10例ほど、B型肝炎一例、白癬菌症数例の発生をみたがいずれも性交渉との関連は判明していない。
 STIの治療は日本感染症学会発行の、性感染症診断・治療ガイドラインに従っており、症状消失まで二種類以上の治療法を適応することも多い。多くは一回の治療で症状が消失しているようだが、来院を中止する患者もあり実際の有効率は正確にはわからない。状況より、来院を中止した理由のほとんどは治癒したためであると考えている。

売春について

 性を交換の対象とすることは古くからフィリピンの生活の一部であった。一方、外貨獲得産業としての売春は、米軍がフィリピンに駐留するようになってからこの国に根付き発展してきた。性産業は当初、スービックやクラークなど米軍基地周辺で栄え、その後マルコスの観光奨励政策のもとに売春が黙認され大都市に広がっていったのである。米軍基地はなくなったが、オーストラリアやアメリカ、日本、その他の国々からの観光者がこの種の性産業を支えている。
 日本とフィリピンの性産業との関わりは、マルコスが1972年に戒厳令を敷いて治安がよくなり、日本人にとって身近な場所で渡航費がそれほどかからないことに日本の旅行会社が目をつけ、団体客がとれる、売れる商品として違法買春ツアーを組織したことに始まる。これには大手の旅行社が何社も関わっていた。1972年に日本からフィリピンへの渡航者の数は6803人であったが、翌年には2万1728人、74年に7万6726人、75年に11万302人、79年には17万5691人と増加し、8割が観光目的、さらにこのうち9割以上が男性であった。同時に、このころからフィリピンから日本にくるフィリピン人も増加した。81年代以降、戒厳令が解除されフィリピンからの渡航が比較的自由になったことも来日フィリピン人の増加に拍車をかけた。日本へ不法入国したフィリピン人女性が売春業に従事し、ジャパ行きとして日比両国の社会問題となったのもこのころからである。景気がよかった頃は、日本人がフィリピンの一流ホテルで買春を行う光景もあり、現在ではフィリピンに数千人の日比混血児がいると言われている。もちろん他の国からも買春目的に観光客が来ている。
 GROの多くは貧困層出身者で、親戚を頼って都会に来た者もいるがほとんどは紹介業者によって貧困街や田舎からリクルートされてくる。フィリピンは貧富の差がきわめて大きく、貧困層の生活環境は悲惨であり、健康や人権に対する最低限の保証もない。無教養なため、中には性奴隷として最初から売春宿(置屋)に売られることもある。買春ツアーが盛んだった頃は日本のやくざも絡んでおり、今でもやくざは怖い女衒のイメージとともにフィリピン人なら誰でも知っている単語である。なお、現在ではエンターテイナーやGROにはやくざは関わっていないそうである。これらGROの目的は金であり、最終的には外国人と結婚することである。あるいは海外で金を稼ぎ、裕福になって帰国することである。フィリピン人は大家族主義で生活態度は刹那的であり、従ってもうけの多い者は一人で何人もの親戚を養うことになる。稼ぎの大部分を店がとるとしてもFSWはなくならない。
 現在フィリピンの性産業は過剰気味であるが、資本主義の流れの中で競争が激しいという。地下経済のため、どれだけGDPに貢献しているかわからないが明らかに外貨獲得の一翼を担っている。ちなみに、登録GROの性病対策は、客である外国人を性病から守るために存在すると言われている。

コンドーム

 インドネシア又はマレーシア製のtrust3個入り、5ペソか6ペソ、オカモト製3個入り、約30ペソがありどちらもコンビニや薬屋、ホテルのカウンターなどで買える。バランガイと言われる最小行政区では、希望があれば住民に無料でコンドームを渡している。

実地見聞、GROへのインタビュー

 フィリピンのカラオケとゴーゴーバーへ実地見聞とインタービューに行って来た。まずは新しくできたショッピングモールの焼き肉屋で食事と勢いづけに行き800ペソ(2000円)を払った。次に韓国人街のカラオケ屋へ。店にはいると短い服を身につけたGROが一階で大量に待っている。二階のカラオケ部屋に行くと一階で待っていた女性たちおよそ25人がぞろりと入ってきた。彼女たちの中から自分の好みの女性を選び、横に座らせて酌をさせたり歌を歌わせたりするのである。ホステスによれば、中には羽目を外す客もいるようだが、概して日本人のビジネスマンはGROにそれほどむちゃをしない。この店のGROもおとなしかった。韓国人にはホステスに無理やり酒を勧めるなど、攻撃的に接客を強いる者があり、彼らはGROに好かれていなかった。私についたGROは、エンターテイナーになるための国家試験をパスし、2003年3月から日本へ行くと言っていた。このとき、一時間カラオケにいて800ペソであった。なじみの客になると女性を外に連れ出すのかもしれないが、私の訪れたところは下品な店ではなかった。
 次に、ゴーゴーバーへ。この種の店はランクにかなり差があり、800ペソで売春を行う店もあるが、私の行った店は高級な部類に属するとのことであった。しかし店には高級感はない。店内には扇情的な衣装を付けたGROたちが、客の数よりも多くいて、店に入るなり、えさに群がる魚のごとく私のまわりを囲んだ。ここでは一杯300ペソの飲み物を五杯分頼んで好みの女性を二階につれてゆく、または店外に連れ出すシステムになっていた。ただし、店内は暗く女性の風貌など分からない。ステージでは一日300ペソの固定給をもらって、水着姿の女性が10人ほど体を軽く揺すって踊っていた。ステージだけは明るく、彼女たちが看板なのであろう。ショーもあるのだが、それは見逃した。一方、店の中をうろうろして客を待っているGROたちは店から給料を支払われているわけではない。私はGROに6杯分、自分の分も頼んで計2100ペソで二階に上がった。頼みもしないのに、女性がもう一人ついてきて、一人ずつに2000ペソ払えばそれなりのサービスをするという言う。私は話を聞くのが目的だったので、サービスはお断りしたが、私のような客はいないのだろう、すぐに口を使ったサービスをしようと非常に積極的であった。これで客を満足させれば、その方が労働力は少なくすみ、客の回転も速くなるのであろう。日本人女性にはクラミジアの咽頭感染が多いが、その理由に日本人はオーラルセックスを好むためとも言われている。あるいは日本人の好みに合わせているのかもしれない。ここのGROたちははじめからコンドームを用いるようであった。二階では、客はGROには何をしてもよいのだとのことだが、ここはステージを囲むように客席のある造りで、真っ暗だが個室ではない。カーテンで仕切られているセミオープンスペースだった。私の他には誰もいなかったが、時には複数の男女がこのスペースにいることもあるのだろうか。彼女たちによれば、サービス料の6割が自分の取り分で残りは店、客がなければ収入がないとのことであった。店によってはGROに売春料として600ペソ(1500円)しか渡さないところもあるとのことであった。GROたちは自分でも金が欲しいからサービスするといい、文字通り必死であった。結局ここではインタービューに時間を拘束したお礼として二人に計3000ペソを払い、最終的に計5100ペソ(13000円)を払った。帰り際、GROと客で一杯の店の一階を出口まで歩いていると、肥満した白人が平気でGROを膝に抱いていた。客にはコーカソイドも多く彼らの中には変態もいるという。有色人種に抜きがたい差別意識を持つ者もいて、客としては性器も小さな日本人が一番よいとGROたちに言われるらしいが、根拠のあることだと思われた。
 いわゆる高級店に勤めるGROたちは、最初はフィリピン人の客も多い安い店で働き、働きぶりや人気によって外国人相手の「高級店」にうつってゆく。何が高級なのか分からないが、店によって値段の開きは10倍ほどにもなる。数年の労働期間だが、GRO業はたやすく収入が得られ、FSWの半分近くが未婚の母だそうである。高級店のGROは定期的なSTI検査を受けているとのことだが、安い店や素人に近いFSWはどうであろうか。

一言

 私は個人的な趣味で、伝手を頼って少数民族の村や貧民のいる地方へささやかな医療援助をしにゆくが、概して地方の医療レベルはかなり低い。住民は貧乏で病院にかからないし、病院も貧乏人にはまじめに治療する気がない。出産に関して言えば、日本ではあり得ない種類の妊産婦死亡や新生児死亡がある。ところが、彼らには戸籍がなかったり、死亡しても役所に届けなかったりするので、疾病の罹患率や死亡率などの統計はとれないし、役所にも統計を取る意志がない。果たして、全国的な統計の正確さはどの程度だろうか。私見では上記の統計は一定の傾向を示しているにすぎないように思う。
 現在のマニラでは性産業は供給過剰気味だとも言われるが、確かにそのような気がした。私が実見した日は平日の夜だったせいもあるが、GROの数の割に客がいない。日本のクラブではホステスが所在なげに店の中をぶらぶらしているなどということはない。もっとも人件費が安いのでたくさんGROが店にいるだけかもしれないが。  週一回のSTI検査について彼女たちは知っていたが、受けているのかどうか本当のところは分からない。


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